奇跡のような、ただ一度の出合い
南国育ちだから寒いところに憧れでもあるのだろうか。
冬の北海道が好きで、車内に泊まりながら1ヶ月近く道内を回る。
天候やその場所のコンディションにも左右されるが、まったく撮れないまま旅の半分を浪費することもあるし、
わずかな時間で全てのフィルムを使い尽くすこともある。
何を撮るのか、そう具体的に決めているものはなく、地図で見つけた、「何とか岬」のような景勝地に行ってみたり、
ただ、人のいない方に、原野に向かって車を走らせたり。
優雅で気ままな旅のようだが、北海道の冬は厳しく、突然一晩に1m近く降る雪や、なだれによる通行止め、
低気圧の通過を待ちながら数日動けないこともある。
こんな話をすると、オフロードのキャンピングカーで旅をしているイメージだが、実際は普通のワゴン車だ。
一応、スタッドレスの冬タイヤだが、幅が小さく、除雪してない所は走れない。
気象情報を慎重にチェックし、安全な道を走る。
宿泊は、道の駅や国道の駐車場。食事は車内で自炊。
節約のためでもあるが、冬でも朝6時には出かけるので、旅館に泊まってもくつろげない。
以前はオフロードの4輪駆動車で旅をした。タイヤは大きく、除雪してない林道もどこまでも進んでいける。
そして、いろんなものが撮影できたかというと、意外とそうでもない。。
今は、その道を歩いていく。大切なのは時間。長い時をその場所で過ごしたい。
ゆっくりと歩きながら、見えなかったものが見えてくる。
それぞれの場所に発見や出合いがある。
出合いと言っても、個人的な感覚で、「その日、その場所で雪が降っている」というような単純なことだ。
でも、自分にとっては奇跡のように、ただ一度の出合いに感じられる。
小さな氷のかけらやツララにも、その日、その時の光が特別に感じられ、
それこそが自分の求めていたものだと直感する。
積もった雪の中を、大型のカメラと三脚で20キロの機材。私の体力では10歩も行けば一休み。
なかなか進まない。
夜明けから日没までゆっくりと移動する。一人だから出来るぜいたく。
この写真は野付半島の枯れ木。2013年の1月3日に撮影。
このあと、経験したことのない激しい吹雪になり、長い時間をかけて雪の中をはって戻ることになった。
北海道の冬を舐めてはいけない。